好きなものに直面しているとき、人は意外とテンションが低い
自分が本当に好きなものを目の当たりにしたとき、人は思った以上にテンション低く、リアクションが薄くなる。
「わー」とか「すごーい」とかあんまり言わない。
好きなものを味わうために、全身全霊で集中する。だから、真顔より若干にやけた気持ち悪い顔で、「ふへ」とか言いながら近づいて、あとは目が泳ぎながらしばらく硬直しているのが、好きなものに直面した人の正しいリアクションだと思う。
だから私は、誰かが好意で、自分の好きなものを見せてくれたときがすごい困る。
「ひげさん、ポルシェの実物見てみたいって言ってましたよね? ちょうどあるんですよ!どうぞ!」
「おぉ本当ですか!ぅお本当やん・・・・・。ふへ」
となるからである。
「ひげさん、サキシマオカヤドカリ見てみたいって言ってましたよね? ここにいるんですよ!」
「え!マジすか!・・・・・・・・へへ、ふへ」
「ひげさん、ヤンバルテナガコガネ見てみたいって言ってましたよね!」
「はい!・・・・・・・・へふ、んふ」
「ひげさん、チェコビールの丸いグラス!」
「・・・・・・・・・・・ほ、ほふふ」
となるのである。
こんなリアクションを見せつけられた日には、
「ひ、ひげさん?(嬉しくないのかな?)」
と、思われても仕方ない。好意でポルシェやサキシマオカヤドカリやその他いろいろを見せてくれた人からすると、「こいつ、普段、好き好き言ってるけど、いざ見せたらふへしか言わないし、ウソなんじゃないか?」となる気がする。
好きだと思っているもの、強く望んでいるものは、当然なのだが「すぐには手元に現れないもの」と知覚している。
いきなり目の前に現れても「なんであるの?」とか、「いいのかな・・?」とか、そういった感覚が先にくる。
素直になればなるほど、恐る恐る、指でつつくようなリアクションしかとれない気がする。
妻も昔、トム・クルーズ(大ファンらしい)のプレミアム試写会だかに当たって、本人と握手したことがあるらしいが、事前に「どうしよう、なんて挨拶しようかなー!」とか英語でなんか伝えようとか考えていたらしいが、そのウキウキは本人に直面した瞬間に消え去り、真顔で1秒握手して終わったらしい。人間の好きなものへ直面したときのリアクションなんてそんなもんだ。
まぁだからといって、無表情がいいとも言えない。
特に好意をくれた人へ無表情で「ふへ」は悪い。そう思って、たまに気を使ってよくありそうな感じのリアクションをしてみる。
「おー!ポルシェ(or サキシマオカヤドカリ)!マジすか!うわ本当だ!やばー・・」
とかなんとか。
しかし今度は、リアクションをとる方に意識を集中してしまうため、せっかくの好きなものを十分に味わうことができない。好きなものを目の前にしているのに、観察もうまく進まない。「このポルシェの表情がねー」とか、気の利いたコメントも全然、出てこないので、「おー!」と最初のリアクションばかり大きいが頭は空っぽな反応になる。
そうすると結局、「こいつ、普段、好き好き言ってるけど、ウソなんじゃないか?」的なことになってしまう。同じ結果に落ち着く。くそぅ・・。
「ふへ」の方がまだマシなんじゃないか。
素直に反応すると「ふへ」なんだから、もうどうしようもないじゃないかと。
「ふへ」と言わせといてくれよ、と。
素直が一番なら「ふへ」でしょ、とやっている。
ちなみに、この理論にのっとると、プレゼントとかで好きなものをもらって「うわー!」とか「これ大好きなんだよー!最高!」とか言っている人は、自分の好きなものに集中出来ていない。その喜びのリアクションは、自分のためではなく他人のためにやっている。だから、好意でプレゼントをした人はリアクションばかりに目をいかせないで、速攻でその場を去ってあげるべきだと思う。
ひとりになったあと、きっと彼or彼女は、プレゼントされた自分の好きなものを見つめ、「ふへ」とやることだろう。
束の間の純粋な至福が彼or彼女に訪れるのである。
当然、個人の感想です。